社会保障・税番号大綱案を読み解く(13)、本人確認が重要な理由

社会保障・税番号大綱案を読み解く(12)、「番号」と各種番号との関係の続きです。今回は、「番号」に係る個人情報(P.33)から、どのような個人情報が「番号」に紐付けられるのか整理してみましょう。

大綱では、「番号」に係る個人情報について

(1) 「番号」
(2) 情報連携基盤を通じた情報連携の対象となるものとして法定された社会保障及び税分野の個人情報
(3) 情報連携基盤を通じた情報連携の対象とはならないものの、法令に基づき「番号」を取り扱い得る事務において「番号」と紐付いて扱われる社会保障及び税分野の個人情報

と定義しています。つまり、「番号」と「法令で定められた社会保障及び税分野の個人情報」が「番号」に関係する個人情報であり、「法令で定められた社会保障及び税分野の個人情報」が「番号」に紐付けられることになりそうです。

「法令で定められた社会保障及び税分野の個人情報」は、具体的には次のような情報とされています。なお、これらの個人情報については、番号法制定時に、更に具体的に法律等により特定することになっています。

「番号」に紐付けられる個人情報の例
・年金分野の各手続のために保有される個人情報
・医療分野の各手続のために保有される個人情報
・介護保険分野の手続のために保有される個人情報
・福祉分野の各手続のために保有される個人情報
・労働保険分野等の各手続のために保有される個人情報
・国税の賦課及び徴収に関する手続のために税務署長等が保有する個人情報
・税務署長等に提出する書類に「番号」と併せて記載するために法定調書の提出義務者等が保有する個人情報
・地方税の賦課及び徴収に関する手続のために地方公共団体が保有する個人情報
・地方公共団体の長に提出する書類に「番号」と併せて記載するために特別徴収義務者等が保有する個人情報
・地方公共団体が条例で定める社会保障や地方税分野の手続のために保有される個人情報
・情報連携基盤を通じて提供を受けた個人情報

このように、かなり広範な種類の個人情報が「番号」に紐付けられることになります。

もちろん、これらの個人情報はこれまで通り分散管理されるので、保有する機関等がずさんに管理していない限りは、「番号」だけで特定個人のあらゆる情報が丸裸になってしまうようなことはありません。

「共通番号の導入で、政府が個人の情報を丸裸にできるようになる」と言う人がいたら、「具体的にどうやって丸裸にするの?」と質問すると良いでしょう。おそらくは、非現実的な答えが返ってくると思います。政府が保有する様々な個人情報データベースに、特定の権力者等が自由にアクセスできるような仕組みは無いのですから。

しかし、たとえ非現実的な答えが返ってきたとしても、そうした懸念や不安は「国民が知りたい情報」についての大切なヒントでもあります。「政府や専門家が重要と考え提供する情報」と「国民が知りたい情報」は一致しないことが多いので、これから時間をかけて「国民が知りたい情報」を探り出していくことが必要でしょう。

さて、「番号」に紐付けられる個人情報から、どのような組織・機関・団体等が「番号」を保有し利用することになるかが見えてきます。

「番号」を保有・利用する機関の例
・国の省庁や出先機関など
・都道府県、市町村、広域連合など
・勤務先の企業や団体、事業所・事務所など
・不動産業者
・銀行や証券会社
・生命保険や損害保険会社
・保険医療機関、保険薬局
・介護サービス事業者
・社会福祉協議会
・税務署
・年金関連団体(日本年金機構、各共済組合、企業年金連合会など)
・健康保険関連団体(全国健康保険協会、健康保険組合、各共済組合、後期高齢者医療広域連合など)

これを見てもわかるように、ほとんどの組織や団体等が、何らかの形で「番号」を保有し利用することになります。「番号」を全く保有・利用しない組織や団体は、例えば町内会、趣味サークル、学会・研究会などでしょうか。

●本人確認が重要な理由

社会保障・税に関する番号制度についての基本方針(4)、不正行為が起きることを想定した制度設計をでも書きましたが、これだけ多くの組織や団体で「番号」が利用される中では、番号の独り歩きを防ぎ、番号そのものに価値を与えないことが大切です。

そのための手段として、「本人確認」があります。「番号を利用する際には、原則として本人確認が必要になる」ことを、国民や企業や行政職員に理解してもらう必要があります。「番号を利用する際に、適切な手段・方法で本人確認をしなかった場合、過失等を追求されて、そこから発生した損害等の賠償を請求されたり、刑事罰を課されたりするかもしれない」という意味もあります。

これから必要になるのは、「どのような手段・方法であれば、適切に本人確認が行われたと認められて、過失が無かったと判断されやすくなるか」といったことでしょう。

大綱では、「番号」に係る本人確認等の在り方として、次のように整理しています。

(1) 本人確認及び「番号」の真正性確保措置
・法令に基づき「番号」の告知を求める際は、本人確認を行い「番号」の真正性確保に努める
・本人確認や「番号」の真正性確保は、ICカードの活用を基本とするがこれに限定しない
・具体的な方法は、手続ごとの厳格性に応じて個別に定める
・民-官、民-民の取引における認証のあり方については、今後検討していく
・電子署名法に基づく認定認証業務の活用を含めて検討する

(2) 「番号」のみで本人確認を行うことの禁止
・何人も、「番号」のみで本人確認をしてはならない
・著しく異常かつ激甚な非常災害への対応等特別の理由がある場合は除く

これらを読み解くと、

・法令に定めが無い限りは、「番号」の告知を求められない
・「番号」の告知は常に「本人確認」とセットで行うようにする
・震災等の緊急時は、「番号」だけで利用することもある(本人確認等は後で行う)
・ICカード(番号記載の改良住基カード)が無くても、たぶん困らない

なお、番号が独り歩きしてしまい、成りすまし等の被害が発生していると言われる米国の社会保障番号(SSN)ですが、実際には運転免許証等の身分証明書(IDカード)で本人確認をしている場合も多いのです。

ところが、身分証明書(IDカード)の偽造が横行しているため、本人確認をすり抜けた成りすましが発生しているのです。先日も、300ドルで入手できる本物そっくりの偽造IDがニュースになったばかりです。「番号」のせいだけで「成りすまし天国」になっているわけではないのですね。当然ですが、「成りすまし」の被害は「番号」の有無に関係なく、どこの国でも起きていることです。

関連>>New generation of fake IDs flinging open doors to underage drinkingReal ID-Compliant Drivers’ Licenses Adopted by Connecticut, New Jersey

身分証明書偽造の話は他人事ではなく、日本でも増えています。住民基本台帳カードの交付における本人確認の徹底について(大分県)にあるように、偽造運転免許証を利用した住基カードの不正取得事件が多数発生したことにより、住基カードを交付する際の本人確認が強化されています。

オンラインにおける認証(本人確認)も大切ですが、まずは市町村や金融機関や病院等の窓口(対面、オフライン)における番号の利用と本人確認についての整理を優先した方が良いでしょう。そして、最終的には、オンラインおよびオフラインにおける本人確認について、政府としてのガイドライン等を整備して、定期的に見直す仕組み(PDCAサイクル等)を作って欲しいと思います。

関連>>Evidence of Identity Standard(ニュージーランド)Evidence of Identity Standard(PDF:カナダ・ブリティッシュコロンビア州)

このように、本人確認は番号制度に関係なく重要なことなのですが、番号制度をきっかけとして本人確認のあり方が見直されて再整理されるとすれば、それは大変に好ましいことです。