社会保障・税番号大綱案を読み解く(2)、社会の変化を促すことも番号制度の役割

社会保障・税番号大綱案を読み解く(1)、番号制度は低所得者向けのセーフティーネットの続きです。

7月7日付けで、「社会保障・税番号大綱」に関する意見募集が始まりました。募集期間は1ヶ月。(案)が取れて「社会保障・税番号大綱」となっていますので、この大綱を参照しながらコメントしていきましょう。

要綱が20ページだったのに対して、大綱は61ページと増えています。項目によって詳細に書かれているものもあれば、今後の検討として濁しているものもあります。内容は、これまでの基本方針、要綱を踏まえたもので、パブリックコメントや関係機関との意見調整を行いながら、法案を作成していくようです。

●番号制度の背景と目的

背景として、

・少子高齢化(高齢者の増加と労働力人口の減少)
. 格差拡大への不安
. 情報通信技術の進歩
. 制度・運営の効率性、透明性の向上への要請
. 負担や給付の公平性確保への要請

ここは異論も少ないでしょう。厳しい環境になってきたと。

課題として、

複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤がないため、
・税務署に提出される法定調書のうち、名寄せが困難なものについては活用に限界
・より正確な所得・資産の把握に基づく柔軟できめ細やかな社会保障制度・税額控除制度の導入が難しい
・長期間にわたって個人を特定する必要がある制度の適正な運営が難しい(年金記録の管理等)
・医療保険などにおいて関係機関同士の連携が非効率
・養子縁組による氏名変更を濫用された場合に個人の特定が難しい等

本来であれば、これらの課題を住基ネットが解決してくれるはずだった気もします。上記の課題は、様々な要因が複合的に絡んでいるので、番号の導入で解決するわけではありませんが、解決手段の選択肢が増えることは間違いないでしょう。

番号制度の目的は、

・正確な本人確認を前提に
・「番号」を活用して所得等の情報を把握し
・それらの情報を社会保障や税の分野で効果的に活用する
・IT化を通じ効率的かつ安全に情報連携を行える仕組みを
・国・地方で連携し協力しながら整備する
・国民生活を支える社会的基盤を構築する

こととしています。この目的に注目した場合、

・正確な本人確認はどうやるの?
・どうやって所得等の情報を把握するの?
・どうやって効率的かつ安全に情報連携するの?

といった疑問を持ちながら番号制度を見ていくと良いでしょう。

●番号制度で何が実現できるのか

番号制度で実現できることとして、

・社会保障の充実
・負担・分担の公正化
・行政事務の効率化
・国民の利便性の更なる向上
・医学の向上など

電子政府では、「行政事務の効率化」と「国民の利便性向上」の二つが挙げられることが多いですが、社会保障(年金、介護、医療等)が良くなると言っています。

高福祉国家である北欧諸国が番号制度をフルに活用しているのは事実ですが、日本の場合は、番号制度をフルに活用できたとしても、社会保障の現状維持さえ厳しいのではないかと思います。

心配なのは、プライバシーやセキュリティの名の下で、使い勝手の悪い番号制度ができてしまい、「負担ばかり増えて良いことはあまりない」となってしまうことです。そうした可能性(リスク)を常に意識しながら制度を作り上げていくこと、定期的に見直して必要な軌道修正を続けていくことが大切と思います。

●なぜ今になって番号制度が必要なのか

これまで番号制度がなかったのだから、別になくても良いのではないか。そんな疑問に対しては、次のように答えています。

なぜ今回導入するのか。それは、国民の権利を守ること、すなわち社会保障給付を適切に受ける権利、さらには種々の行政サービスの提供を適切に受ける権利を守ることにある。

今回導入する番号制度は、主として給付のための「番号」として制度設計する。

番号制度は、まずは、公平性・透明性を担保し、もって本当に困っている国民を支えていくための社会インフラであり、国民にとって、そのようなメリットが感じられるものとして設計されなければならない。

諸外国の番号制度を見ると、導入当初の目的は様々で、国防上の理由もあれば不正受給や脱税の防止といった理由もあります。しかし、国家が成熟するにつれて、国民サービスの向上や行政の効率化といった用途の比重が大きくなっています。

権利と義務は表裏一体なので、権利を守ることで義務を意識する機会も増えるでしょう。誰かの社会保障を充実させることは、誰かの社会保障を抑制することになるかもしれません。透明性が高まることで、不正受給や脱税がしにくい社会になるかもしれません。

このように社会の変化を促すことは、番号制度に期待される大切な役割ではないかと思います。

●実現すべき社会とは

こちらは基本方針から変わっていませんね。

・より公平・公正な社会の実現
・社会保障がきめ細やかかつ的確に行われる社会の実現
・行政に過誤や無駄のない社会の実現
・国民にとって利便性の高い社会の実現
・国民の権利を守り、自己情報をコントロールできる社会の実現

個人的には、あまり窮屈になっても住みにくいと思うので、「変化に対して柔軟に対応できる社会」「失敗に対して寛容な社会」なども実現して欲しいところです。

これ以外にも、被災者救援・震災地復興、防災福祉といった観点から、番号制度の活用が検討されています。具体的な活用方法については、国内だけで検討するのではなく、諸外国の事例も調査した方が良いでしょう。

次回は、具体的な利用場面について考えてみます。