社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会(第3回)、番号制度の形が見えてきた

1月24日(月)に開催された社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会(第3回)の議事次第と配布資料が公開されています。最近の政府検討会は、当日公開が多くなりました。とても良いことですね。

すでに、社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会中間整理(PDF)が公開されていますが、今回の実務検討会で、より具体的な方向性や今後の予定が明らかになったようです。

配布資料は、次の通りです。

(1)社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会委員等一覧
(2)北川代表からの説明資料
(3)足立主任研究員からの説明資料
(4)地方公共団体調査結果(全国知事会、全国市長会、全国町村会)
(5)社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針の主要論点(案)
(6)ワーキンググループの設置について(ポンチ絵)
(7)個人情報保護ワーキンググループ及び情報連携基盤技術ワーキンググループ設置要綱
(8)「社会保障・税に関わる番号制度」に係る平成23年度関係省庁予算(案)概要
(9)三つの国づくりの理念と最重要・重要広報テーマ(内閣広報室作成資料)
(参考)社会保障改革の推進について

●番号制度の導入を含む社会保障改革の方向性が決まった

まず、参考資料の社会保障改革の推進について(PDF)に触れておきましょう。社会保障改革に関する有識者検討会や政府・与党社会保障改革検討本部の検討を踏まえて、平成22年12月14日付けで閣議決定されたものです。

A4一枚のペーパーで、書かれている内容は次の二つだけです。

1 社会保障改革に係る基本方針
2 社会保障・税に関わる番号制度

基本方針では、

・国民の安心を実現するために「社会保障の機能強化」と「財政の健全化」が不可欠
・社会保障の安定・強化のための具体的な制度改革案とその必要財源を明らかにする
・財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革を一体的に検討する
・実現に向けた工程表とあわせ、23年半ばまでに成案を得、国民的な合意を得る
・野党各党に社会保障改革のための協議を提案し、参加を呼び掛ける

となっています。改革案のイメージとしては、社会保障改革に関する有識者検討会報告概要(PDF)が参考になるでしょう。

社会保障・税に関わる番号制度については、次の通りです。

・社会保障・税に関わる番号制度については、幅広く国民運動を展開し、国民にとって利便性の高い社会が実現できるように、国民の理解を得ながら推進することが重要である。
・このための基本的方向については、社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会「中間整理」において示されており、今後、来年1月を目途に基本方針をとりまとめ、さらに国民的な議論を経て、来秋以降、可能な限り早期に関連法案を国会に提出できるよう取り組むものとする。

というわけで、よほどの反対が無い限りは「社会保障・税に関わる番号制度」が導入されることになりそうです。これからは、「どうすれば良い制度にできるか」といった、より具体的かつ建設的な議論が行われるでしょう。

●地方との連携が大切

番号制度の効果を高めるには、住民サービスの担い手である自治体の参加・協力が必須となります。

税と社会保障分野だけでも、様々な種類の情報やデータベースがあり、分散して管理されています。そうした住民情報が同一人物のものであることを識別できる番号があると、情報システムを構築し運用する上で、とても効率的です。

今回配布された地方公共団体調査結果:全国知事会、全国市長会、全国町村会(PDF)などから自治体の現場を知ることで、番号制度の有効活用事例を増やしていくことが必要でしょう。

具体的な活用例については、国と自治体で密に協議・連携しながら検討して欲しいと思います。

●番号制度の形も見えてきた、改良住基カードが国民IDカードに?

社会保障・税に関わる番号制度についての基本方針の主要論点(案)で、検討事項や今後の取組み予定がより明らかになりました。

(1)理念

複数の機関に存在し、かつそれぞれに蓄積される個人の情報が同一人の情報であるということの確認を行うための基盤が存在しないことが課題

とされています。

番号制度は、かかる基盤を提供することにより、国民がより公平・公正さを実感し、国民の負担が軽減され、国民の利便性が向上し、国民の権利がより確実に守られるように、主権者たる国民の視点に立って、以下のような社会を実現することを理念とするもの。

1 より公平・公正な社会の実現
2 社会保障がきめ細やか且つ的確に行われる社会の実現
3 行政に過誤や無駄のない社会の実現
4 国民にとって利便性の高い社会の実現
5 国民の権利を守り、国民が自己情報をコントロールできる社会の実現

おおむね良いと思いますが、「行政に過誤や無駄のない社会の実現」は説明が必要でしょう。より正確に言えば「行政に過誤はあるけど、過誤が発見されやすい仕組み、過誤を修正・回復しやすい仕組みを作りましょう」だと思います。

業務改革やITの有効活用・自動化で減らせる過誤や無駄は、とことん減らしましょう。けれども、過誤や無駄を完全になくすことはできない。だから、そうした過誤や無駄に対しては、寛容・柔軟に対応していくことが大切と思います。

(2)番号制度に必要な3つの仕組み

番号制度(複数の機関に存在する個人や法人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤)を構築するためには、

1 付番
2 情報連携
3 本人確認

の3つの仕組みが必要としています。イメージとしては、こんな感じでしょうか。

1 情報—番号
2 番号—番号
3 番号—本人(現実の本人、ネット上の本人)

「付番」は、個人と法人等に対して番号をつけることです。

年金記録のように、同一人物の情報なのに複数に分かれて(別の人物の情報として)記録されているケースが、他の情報データベースにもあるのではないでしょうか。付番の作業により、記録されている情報がより正確なものへと修正・統合されることに期待しましょう。

番号制度に反対する勢力には、自身が管理しているデータベースの情報が、きちんと本人確認等を行わないで記録されたために、この付番作業により過誤がばれると困る人や組織があります。こうした反対勢力ほど、プライバシー問題等を誇張することがあるので注意が必要です。

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「情報連携」は、

・複数の機関において
・それぞれの機関ごとに番号を付して管理している
・同一人の情報を紐付けし
・紐付けられた情報を相互に活用する仕組み

としています。

税と社会保障分野のデータベースだけでも、たくさん種類があります。これらのデータベースを情報の鮮度と正確性を保ちながら連携・活用することは、けっこう大変です。諸外国の例を参考にしながら、持続可能性や拡張性に配慮したシステム設計が必要です。

「本人確認」については、

・「番号」を利用する際
・利用者が「番号」の持ち主本人であることを証明するための
・本人確認(公的認証)の仕組みを構築する
・公的個人認証と住民基本台帳カードを
・番号制度の導入に合わせて改良し活用することで本人確認を行う
・民-官、民-民の取引の場面で求められる認証の在り方について検討する

これまで、「ICカード」の活用についてはっきりしませんでしたが、「改良される住民基本台帳カード」であることが明確になりました。エストニアの国民IDカードのように、住基カードを「オンラインおよびオフラインにおける公的な身分証明書カード」として位置づけるのかもしれません。

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(3)「番号」はどのように利用されるのか

当面、社会保障と税務の分野の次のような場面で利用されるが、それぞれの具体的な利用場面をどう考えるか。

1.社会保障分野における利用
2.年金・税務分野における利用
3.医療・税務分野における利用
4.税務分野における利用
5.より一層国民の利便に資する利用(申請・申告等における添付書類の省略)
1)給付等の申請
2)自己負担割合・自己上限負担額の決定
3)国税・地方税の申告
6.国民が自己情報を確認し、行政機関等からの情報提供により、サービスを受ける

番号制度が導入されたからと言って、夢のようなサービスが実現できるわけではありません。まずは、税と社会保障分野における行政内部の事務処理を徹底的に効率化させ、情報連携できる体制作りが必要です。

その上で、優先すべきサービスについて検討して欲しいと思います。

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(4)個人情報保護の方策

番号制度に係る個人情報保護の具体的方策については、2011年5月を目途に「社会保障・税番号大綱(仮称)」に向けた一定の結論を得るよう検討を進めるようです。主な論点は次のとおり。

1.自己情報へのアクセス記録の確認
2.第三者機関
3.目的外利用・提供の制限等
4.罰則
5.プライバシーに対する影響評価

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(5)今後の進め方

以前から指摘されていたワーキンググループの設置について(PDF)も明確になりました。

・2011年5月を目途に
・「社会保障・税番号大綱」に向けた一定の結論を得るよう
・ワーキング・グループを新設する
・個人情報保護WGと情報連携基盤技術WGを置き
・社会保障分野検討会(サブWG)も置く

現在、「番号制度」と「国民ID制度」が検討されており、両者の関係や違いがはっきりしませんでした。どちらも識別番号の話であり、認証(本人確認)の話も含んでいます。

「番号制度」を検討しているのが、
・政府・与党社会保障改革検討本部
・社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会

「国民ID制度」を検討しているのが、
・IT戦略本部
・企画委員会
・電子行政に関するタスクフォース

今回のワーキンググループは、「番号制度」と「国民ID制度」とが抱える共通の問題について合同で検討しましょう、という位置づけのようです。

ただし、事務局が
・共同事務局
・社会保障改革担当室
・IT担当室
・厚生労働省
と乱立しており、ちょっと混乱しそうな気もします。

ワーキンググループとは別に「番号制度創設推進本部」も新設されます。広報・普及推進機関といった位置づけのようです。

番号制度について国民各層の納得と理解が得られるよう、番号制度創設推進本部を設置し、民間団体と協力しながら番号制度の創設を推進する。

・政府広報を積極的に実施し
・中央・地方の各界各層の協力を得て
・平成23、24年度にかけて
・全国47都道府県で
・番号制度に関するシンポジウムを行う
・番号制度導入の周知・広報を行う民間団体を支援し連携する

(6)今後のスケジュール

2011年(平成23年)
1月 基本方針の決定
3-4月 「社会保障・税番号要綱(仮称)」の公表
6月 「社会保障・税番号大綱(仮称)」の決定
秋以降 可能な限り早期に法案提出

報道等によると、
・第三者機関の設置時期:2014年ごろ?
・番号の配布時期:2014年6月ごろ?
・利用開始時期:2015年1月ごろ?
・ICカードの配布時期:2014-2015年ごろ?

といった感じでしょうか。基本方針の公表を待ちましょう