i-Japan戦略2015を読み解く(5)、不要な行政機関や外郭団体の排除でシステムの肥大化を防ぐ

i-Japan戦略2015を読み解く(4)、具体的な数値目標やスケジュールはこれから の続きです。今回は、電子政府・電子自治体分野における方策について、作者が重要と考える、いくつかのポイントを指摘してみましょう。

●明確で客観的な評価基準の設定

これまでの電子政府サービスは、「お客様に出せるレベル」とは言えないものが、たくさんありました。電子政府ユーザビリティガイドラインなどにより、最低限のサービス品質と仕事品質が確保されることになれば、少なくとも「お客様に出せないレベルのサービス」の開始を事前に止めることができます。

システム開発者や行政の視点、都合ではなく、利用者の視点を持つ人たちが、サービスの開始について”Go!”や”Stop!”と言えるようにしないと、同じ過ちを繰り返すことになります。

●有用な行政情報の電子化と公開

政府が保有する情報の活用は、経済成長戦略に欠かせないものです。統計情報、登記情報、特許情報などを、民間が加工利用しやすい形で、広く公平に提供していくことが必要です。

行政が、民間企業の経営に口を出してもろくなことがありませんが、行政が保有する情報の提供は、行政にしかできない重要な役割なのです。

●電子政府・電子自治体クラウドの構築

残念ながら、現在の中央政府・地方政府は、まだ自前の(プライベート)クラウドを構築するレベルにありません。

気になるのは、政府が「システム運用のコストを下げる」という名目でクラウド構築を進めている点です。

政府にとってより必要で急務なのは、「システム開発の生産性、迅速性、柔軟性を高める」ことであり、その成果として「業務の生産性、迅速性、柔軟性を高める」ことです。

「仕事のやり方を変えて、その成果を目に見える形で示す」ことができなければ、電子政府・電子自治体クラウドは単なる流行言葉への追従となってしまうでしょう。

●業務プロセスの徹底した見直し

「業務プロセスの見直し」よりも前にやるべきなのは、「業務自体の見直し」です。

そもそも、国や行政がやる必要があるのか。重複する業務を統合してアウトソーシングした方が良いのではないか、ということです。

つまり、行政改革・地方分権・規制改革といった構造改革と一体になって、電子政府・電子自治体を進めるという決意が必要なのです。

業務プロセスを見直すにしても、なぜ今まで何度も見直そうとして失敗したのかを分析しないことには、今回の見直しが成功することもありえません。

強力なインセンティブや危機感が無いまま、行政自身に見直しを任せても、効果は期待できません。見直ししようとする人たちが、見直ししたくない人たちに潰されてしまうだけです。

業務の見直しが不十分・不成功のまま、電子中心の事務処理へと移行すれば、お金がかかるばかりで、現場の混乱と反発を招くだけで終わってしまうことでしょう。

●国民電子私書箱の整備

国民電子私書箱に関する記述量の多さからも、政府がこの施策を電子政府の中心に置こうとしている意図が感じられます。

このまま国民電子私書箱を進めても、国民や企業に利用を強制することでもしなければ、政府が期待するような利用率や普及は実現しないでしょう。

もう少し、「小さく慎重」に進めて欲しいと願うばかりです。

●企業コードのひも付け

情報処理において必要不可欠な「ひも付け(データ同士の結びつけ、連携)」を、きちんと整備してこなかったことのツケが回ってきた。

それが、現在の行政システムです。

年金記録問題では、基本作業である「記録」自体がいい加減だったことに加えて、記録があっても誰の記録かわからないことがありました。

そもそも、関係性の深いデータ(例えば、医療と介護、年金と雇用など)は、初めから「ひも付け」あるいは「データベース統合」「ID統一」をしておくべきであり、そうした「ひも付け」の範囲や対象分野や必要性について、国民にきちんと説明しておけば良いのです。

そして、関係性が深くないデータの「ひも付け」については、場面に応じて本人に選択させれば良いのです。

現在のデータ管理は、行政の縦割りに合わせたもので、国民の暮らしや企業の活動に合わせたものではありません。

行政を初めとした公共分野で保有・利用されているデータを、どのように管理・運用し、連携・共同利用していけば、より良い社会を実現できるのか。人々の暮らしが豊かになるのか。年金記録のような間違いが起きなくなるのか。

このことを、国民を交えて真剣に考える時期にあるのです。

●共有される行政情報(添付書類)の提出要求を禁止する

電子化・ネットワーク化が完了したにもかかわらず、不動産登記簿や法人登記簿の謄本を国民に一通1000円で売りつけ、その謄本の提出先が同じような役所だったりします。

こうした殿様商売を、もはや存続させてはいけません。

窓口申請であろうとオンライン申請であろうと、各種証明書の提出を不要とすることは、電子政府への税金投入を国民に還元するものとして、必ず実現して欲しいものです。

その過程で、多くの天下り・外郭団体が収入減となることは避けられません。

●アクセス手段の複数選択

これまでは、政府が適当と考える方式を、国民に押し付けるというやり方ばかりでした。

今後は、民間で広く普及している方式に、政府が合わせるというやり方が一般的になることでしょう。

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●第三者機関等によるシステム全体の監視

電子政府への監視を、誰がどのように行うかは重要な問題です。

基本となるのは、徹底した情報公開により国民自身が監視できるようにすることです。

第三者機関が、天下り・外郭団体の食い物となり、形骸化しないよう注意しましょう。

●行政情報共同利用支援センター(仮称)の具体化

「国民電子私書箱」や「社会保障カード」ばかりが注目されがちですが、「行政情報共同利用支援センター」こそ、より重要な役割を担う仕組みであり、その動向に注意しておく必要があります。

「行政情報共同利用支援センター」とは、次世代電子行政サービス基盤の中で出てくるもので、官民におけるサービスやデータの連携を仲介する仕組みです。

システム構成や機能については、かなりのところまで検討が進んでいますが、その内容は驚くべきものです。

「本当にこれを作るつもりなのだろうか」、「いったい、いくらかかるのだろうか」と怖くなってしまいます。

自動車保有関係手続のワンストップサービスでも明らかになったように、重要なのは各手続きや行政機関がシステム・通信上で繋がり連携することではありません。

縦割り行政で、各機関が非効率な仕事をしている状態を変えることなく、各機関の仕事を連携させても、それは「見せかけのワンストップサービス」でしかありません。

「自動車保有関係手続」を、いかに迅速かつ確実に、効率・効果的に完了するか。

という視点から、各機関における仕事のやり方はもちろん、各機関の役割や分担まで変更して、「自動車保有関係手続」そのものを最適化する必要があるのです。

最適化の過程では、特定の行政機関が担当を外されることもあれば、天下り・外郭団体が排除されることもあります。

「行政情報共同利用支援センター」を作るのであれば、目的を「添付書類の廃止、提出要求の禁止」と絞り込んで、そのために必要な最低限の機能を備えるシステムを構築すれば良いのです。

「ワンストップサービス」の意味を勘違いしたまま、「行政情報共同利用支援センター」の構築を進めると、日本の電子政府にとって取り返しの付かない大変な惨事となるでしょう。

●電子政府と行政改革を担う政府CIOの任命

電子政府と行政改革をセットにしているのは、とても良いことです。行政改革なしの電子政府は、単なる電子化であり、個人で言えば「パソコンや携帯の買替え」でしかありません。

政府CIOに、予算の調整や配分等の権限与えるのは良いですが、肝心の人事権に関する記述がありません。この点は、明確にしないといけません。

各府省CIOについても、どのような人が選出されるのかよくわかりません。

電子政府の取組・評価、業務改革の実施には、第三者的・国民側からの視点や立場が必須となります。

外部から人材を招くのか、行政側にとって都合の良い人材を選出するのか。この点を、「機能するCIO」を目指すのであれば、明らかしておく必要があります。