トンデモ“IT契約"に騙されるな、システム更改やデータ移行への配慮も必要

トンデモ“IT契約”に騙されるな
上山 浩 (著)
日経BP社

富士通や野村総研を経て弁護士になった著者による、IT契約のわかりやすい解説書。

トンデモ“IT契約”に騙されるな – ベンダー任せの契約は危険がいっぱい!:ITproと合わせて読むと、より理解しやすいでしょう。

本書のベースになっている「情報システム・モデル取引・契約書」は、産業構造・市場取引の可視化(METI/経済産業省)で参照することができます。ここには、モデル契約書以外にも
・非機能要求グレード報告書
・ソフトウェアメトリクスの高度化
・情報サービスソフトウェア産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン
・ADR(裁判外紛争解決手続)
・IT投資価値評価に関する調査研究(試行版)

などがあり、IT投資や契約を考える上で大いに参考になります。なお、情報システム・モデル取引・契約書には「パッケージ、SaaS/ASP活用、保守・運用」を含む「追補版」も出ています。ユーザーを自治体に絞った「地方公共団体におけるASP・SaaS導入活用ガイドライン」なども参考になるでしょう。企業向けでは、クラウドサービスの活用と契約モデル(JEITAクラウドビジネス推進研究会)などもあります。

本書には、次のような項目についてのポイントが整理されています。
・基本契約と個別契約
・善管注意義務
・瑕疵担保責任
・民法、商法の原則
・損害賠償
・著作権
・事前合意済み文書
・リスク回避条項
・値上げ
・最低利用期間
・SLA(サービス品質保証に関する合意)
・個人情報漏洩のリスク
・範囲の明確化
・偽装請負、二重派遣
・契約交渉

また、上記の「情報システム・モデル取引・契約書」を利用する際も、ユーザー企業側に不利(ベンダーに有利)な条項も含まれているので、適宜修正して活用するようにすすめています。

契約は「権利義務に関する取り決め」なので、お互いの責任の範囲と重さ(深さ)を調整することが必要になります。契約自体はツールなので、適切な対価を支払って、より良いシステムを構築し、売上げの増加やコスト削減など本来の目的を達成することが大切ですね。

本書でカバーする項目で、ほとんどの基本内容を網羅していますが、追加するとすれば「システム更改やデータ移行時におけるITベンダーの協力義務」があります。

電子政府・自治体では、5-7年ぐらいの周期でシステム更改を行い、改修・新規構築・クラウドなど新サービスへの移行などがありますが、この際に過度なベンダーロックインがあると、円滑なシステム更改ができません。

著作権等の権利関係を明確にすると共に、「システム更改やデータ移行時におけるITベンダーの協力義務」の規定を契約書に盛り込んでおくと、システム更改もスムーズになるでしょう。

この問題については、「自治体クラウドの円滑なデータ移行等に関する研究会とりまとめ」や「情報システム調達のための技術参照モデル(TRM)」が参考になると思います。