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大学におけるPKIの活用 2003年7月5日

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大学におけるPKIの活用方法や、基本的な考え方を整理しました。

要旨:
大学におけるPKIや電子証明書の活用は、学生を管理するために行われるべきではない。大学の価値を高め、より快適な学習環境を提供するために、PKIを活用することを目指すべきである。

 
本質的な価値を見極める

PKIや電子証明書の利用を考える場合、まず対象とする分野を選ぶことになりますが、いったん分野を選んだら、次にやるべきことは、その分野における本質的な価値が何かを見極めることだと思います。

価値もわからないまま、こんな場面にニーズがあるのではとPKIを当てはめる方法は、「別にPKIでなくてもいいんじゃない」と失敗する可能性が高いでしょう。

例えば、電子申請でPKIを使おうとしたとき、電子申請にとっての価値が何かを考えます。その次に、PKIを利用することで、その価値を高めることができるのか、高められるとしたら、どういう形での利用が良いのかと考えることになります。

仮に、電子申請のおける価値=「行政サービスの向上による市民の満足」

としましょう。PKIの利用により、サービスへの信頼性・安全性が高まるのであれば、電子申請の価値アップに貢献してくれそうです。

一方で、電子証明書の取得や利用が面倒で複雑なものであれば、肝心のサービスにたどり着けない人が出てくるわけですから、電子申請の価値ダウンにも繋がります。

そこで、電子申請の価値ダウンに繋がるものを少なくしていけば、

PKIの利用=電子申請の価値アップ

となり、めでたく「電子申請におけるPKI利用の成功」となるわけです。

PKI利用の進め方
  1. 対象となる分野を選ぶ
  2. その分野における価値を見極める
  3. PKI利用が価値アップに貢献するか考える
  4. PKI利用により価値ダウンとなるものを減らす
  5. さらなる価値アップの可能性を探る
大学の価値ってなんだろう?

今回は、「大学におけるPKIの活用」ということですから、まず初めに「大学の価値」を考えてみましょう。

仮に、「大学の価値」=

学生に学習しやすい環境を提供し、彼らの可能性を引き出してあげること

としましょう。ここで言う「学習」は、知識の習得、習得した知識の応用、新しい知識の創造、人間関係の構築、社会活動への参加などを含みます。

具体的には、授業を受ける、ゼミで議論する、研究・実験する、図書館で勉強する、資格を取得する、友人を作る、アルバイト(起業)する、クラブ活動に参加する、イベントを企画・実行する、ボランティア活動に参加する等々。

価値が決まれば、次は、その価値がPKIの活用によりアップするかどうかです。具体例を挙げながら考えてみますね。

例として、

「学生証をICカード化して、電子証明書を格納する」

という方法を取り上げましょう。見た目は、従来の学生証と同じく、大学名、学部、名前、住所、生年月日、写真などが印刷されています。

この「ICカード学生証」を使うものとして、3パターンほどありましょうか。

(1)学生としての権利を行使するときに使う

授業を受けたり、学内の施設を利用したりすることです。

大学にもよると思いますが、授業を受けたり、学内の施設を利用するのに、いちいち学生証の提示をすることはないと思います。

ですから、「ICカード学生証」がないと、授業が受けれないとか、出席がカウントされないとか、施設が利用できないとなれば、今より不便になって、快適な学習環境の提供とならないでしょう。

「ICカード学生証」を使って、授業の出席にある種の強制力を持たせても、大学の価値が高まるとは思えません。

また、遠隔授業をする場合でも、「ICカード学生証」がないと授業を受けられないとするよりは、IDとパスワードにより、ネットカフェや無線スポットからのアクセスも可能とした方が、より快適な学習環境に繋がりそうです。

作者が、「ICカード学生証」の利用で有望と思えるのが、個人情報へのアクセスコントロールです。

オンラインで、自分の履修状況、出席状況、単位の取得状況などを確認でき、今後の自分に必要な授業や単位がわかり、実際に手続等もできるようなサービスがあれば、快適な学習環境作りに貢献してくれそうです。

よりセキュアな環境が求められる個人情報へのアクセスであれば、IDとパスワードではなく、わざわざ「ICカード学生証」を利用する必要性も見出せるでしょう。

(2)サービスを受ける

映画、旅行、買物などの学割サービスを受けることです。

「ICカード学生証」を利用することで、オンラインショッピングなどでも学割サービスを受けることができれば、それなりの利用価値はありそうです。

しかしながら、今までの学生証で何ら不自由がないとも言えますし、大学の価値を高めてくれるようにも思えません。

(3)事務手続を行う

履修登録をしたり、各種証明書等の交付申請をしたりすることです。

「ICカード学生証」を利用することで、記入の手間が省略でき、事務局の営業時間に関係なく、履修登録や各種申請ができるようになれば、なかなか便利そうです。

各種証明書等は、何か目的があって必要になるわけですから、手続が簡素化・迅速化されれば、結果として学生の様々な活動をサポートしてくれるとも言えそうです。

利用場面をイメージできるか

「ICカード学生証」の利用者である学生が、どんな気持ちで使ってくれるかを考えることも大切ですね。

便利だなあ、勉強しやすいなあと思うか、面倒だなあと思うか、管理されている、見張られている感じでイヤだなあと思うか、別に何とも思わないか。。

ともあれ、「大学におけるPKIの活用」は、それなりの希望がありそうですね。もちろん、大学の価値を「学術研究を通じて、地域社会や産業の発展に貢献する」などのように、違った形で定義すれば、PKI利用についても、また違ったアイデアが出てくるでしょう。

作者自身もそうですが、PKIの活用を考える場合、知らず知らずのうちに「まずPKIありき」の発想に陥りがちです。PKIは、「対象となる分野における本質的な価値」を高める方法としての、一つの選択肢に過ぎないことを認識したいものです。


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