MBR Consulting マナブーズ・ルーム・コンサルティング
電子商取引・電子行政サービスにおける企業認証 2002年12月2日

Home >>> 論考・資料室 >>> 電子商取引・電子行政サービスにおける企業認証
 
企業の電子認証制度について、そのあり方を考えたものです。

要旨:
課題の多い法務省の「商業登記に基礎を置く電子認証制度」の他に、実務で使える企業のための認証サービスを普及させることが必要である。

電子商取引や電子政府の健全な発展を促すためには、民間認証サービスを活用しながら、国民や企業が、サイバースペースにおいても安全で信頼できる環境の下、商取引や行政サービス利用等ができることを目指すべきである。

 
電子政府や電子自治体が行政サービスを提供する場合、サービスの受け手である国民や住民(個人、企業)の本人確認が必要になります。この本人確認方法として利用されるのが、電子認証・電子署名というもので、具体的には認証局から発行される電子証明書を使うことになります。

電子認証制度の目指すもの

今回のテーマは企業の電子認証はどうすれば良いかということなのですが、結論を言えば、

ほとんど利用されない法務省の「商業登記に基礎を置く電子認証制度」は終わりにして、民間の認証サービスを利用しましょう

ということです。

そもそも、電子認証制度が必要とされるのは、

国民や企業が、サイバースペースにおいても安全で信頼できる環境の下、商取引や行政サービス利用等ができるようにしましょう

という考えがあるからです。この基本的な考えを忘れては、電子認証制度に固執する余り、かえって電子商取引や電子政府の発展を阻害してしまうこともあるでしょう。

ですから、「商業登記に基礎を置く電子認証制度」を通じて、企業の認証制度のあり方を見直してみようと思うわけです。

「商業登記電子認証制度が利用されない理由

さて、電子入札の分野を除きますと、現在の電子申請で利用できる企業認証は、「商業登記に基礎を置く電子認証制度」のみとなっています。

●「商業登記に基礎を置く電子認証制度」について
http://www.moj.go.jp/ONLINE/CERTIFICATION/index.html

この電子認証制度は、残念ながら利用者も少なく、サイバースペースの安全と信頼に貢献しているとは言えない状況です。その理由として考えられるのが、次の三つです。

(1)手続が面倒である

電子証明書の発行申請・取得を行うために、市販ソフトウェアを購入する必要があります。また、取引等の相手方が電子証明書の有効性を確認する際にも、対応のソフトウェアを使用する必要があります。

民間の電子認証サービスでは、このような手間は必要ありません。

(2)手数料が高い

平成14年11月現在、手数料額は、

電子証明書の証明期間3か月当たり24,000円

となっています。ちなみに、最近サービスが始まった電子入札対応の企業認証サービスである

●e-Probatio
https://www.e-probatio.com/ps/about/index.html

では、2年で30,000円(しかもICカード格納で、2枚目以降は価格割引あり)となっていますから、いかに商業登記電子認証制度の手数料が高いかわかるでしょう。

本来であれば、政府機関が行う電子認証サービスは、無料または、それに近い価額で提供されなければいけないのですよね。例えば、法人代表者印の提出(届出)を行うとき、希望者には1年間千円程度で発行されるというように付加サービスとして行われるべきでしょう。

なお、あんまり高いと評判なので、平成15年4月ころの改定(大幅値下げかな)に向けて、現在検討を進めているそうです。

(3)用途やメリットが少ない

取引等の相手方にも対応のソフトウェア使用を要求するため、電子商取引では利用されず、電子申請ができるといっても、利用できる手続も少なく、電子申請なのに紙の申請より面倒だったりするので、電子政府でも利用されないということです。

これでは、利用されないのも納得ですよね。今後の改善を期待するのも、今までの経緯(運用開始から2年以上経過)を見る限りでは、ちょっと難しいでしょう。

民間認証サービスの活用と留意点

多くの民間認証サービスが企業の電子証明書を発行して、各企業が自由に選択することができるようになれば、サービスの向上(発行手続の簡素化)や手数料の低価格化が進むと共に、電子認証サービスの発展にも貢献してくれるでしょう。

ただし、民間認証サービスによる電子証明書では、企業の登記(存在)情報をリアルタイムで確認できません。そこで、提案したいのが「利用する電子証明書情報の登記」と「商業登記情報の無料Web公開」です。

各企業が利用する電子証明書に関する情報(発行機関、フィンガープリント等)が登記され公開されていれば、電子証明書を受け取った相手方は、商業登記を通じて企業の実在を確認することが可能になります。また、商業登記情報を併用することで、電子証明書の記載情報を日本語とする必要もありません(=特別なソフトウェアがなくても内容を確認できる)。

そして、現在は有料となっているインターネット登記情報提供サービス(利用数も多い)が無料となり、Webで自由に閲覧・検索できるようになれば、電子認証サービスはもちろん、あらゆる商取引等において広く利用されることでしょう。

法務省の外郭団体(法務省所管公益法人一覧表)に有料サービスをさせている余裕があれば、安全で信頼できるサイバースペースの確立と、健全な電子商取引と電子政府発展のために、早急に「商業登記情報の無料Web公開」を実現するべきです。

もちろん、商業登記簿に公示力や公信力があるといっても、インターネット上で公開される企業の登記情報は、あくまで参考情報であり、自己責任で利用する必要があることを、利用者にあらかじめ理解してもらうことが大切ですね。

具体的な利用イメージ

例えば、こんな感じで利用されるかもしれません。

  1. 企業は、申請書の郵送等により、民間認証サービスから電子証明書の発行を受ける。
  2. 相手方の企業と、電子署名メールのやり取りで商談等を進める。その際には、お互いの電子証明書を確認する。
  3. 契約する前に、インターネットで商業登記情報を確認して実在を再確認する。
  4. 契約内容等に応じて、相手方の与信状況や評判等を調べる。
  5. 晴れて契約を締結。(必ずしも電子契約書にする必要はない)

こうした作業(電子証明書を利用するかどうかを含む)は、各企業が自己責任で行うことであり、リスク管理の問題なのですよね。相手が、昔から付き合いのある良く知っている企業であれば2まででOKとしたり、取引額が少ないので3まででOKという具合に、状況に応じた利用をするということです。

まとめ

電子署名・電子認証は万能薬ではありません。サイバースペースに安心と信頼を築くために有効な手段ではありますが、あくまでも一つの要素として機能するに過ぎません。

電子署名・電子認証=安心・信頼ではなくて、電子署名・電子認証を効果的に活用することで、安心度・信頼度がアップし、他の要素と組み合わせて相互に補完し合うことで、更なる安心度・信頼度アップが期待できるのです。

ですから、企業認証についても、多くの認証局が選択肢としてあり、他のサービスと併用することで、より安全で信頼性の高い電子商取引や電子政府が実現されるという仕組みが望ましいのです。

このままでは、「商業登記に基礎を置く電子認証制度」が、電子商取引や電子申請の発展を阻害することに成りかねませんので、悪いことは言いませんから、早々に方針転換することをおすすめします。


All Rights Reserved. Legal Notices. Copyright 1999-2004 Manabu Muta