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電子政府・電子申請サービスにおける利用者コスト 2005年7月24日

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電子申請の利用は、紙から電子という新しいサービスへの移行です。しかし、新しいサービスへの移行は、面倒で避けたいもの。。

「面倒を減らす努力」と「サービスの魅力を増す努力」だけが、使ってもらえる電子申請を実現してくれることを理解しましょう。

 
日本の電子政府は、コスト感覚が足りないと言えるでしょう。

これは、「たくさんのお金をかけて作った電子申請システムなのに利用率が少ない」という意味もありますが、作者が指摘したいのは

利用者のコストを考えていない

ということです。ちなみに、「利用者」には国民(個人、企業)だけでなく、行政職員も含みます。

ところで、電子政府・電子申請では、よく「利便性の向上」という目標が掲げられます。「利便性の向上」は、行政(あるいは電子政府ベンダー)にとっては便利な言葉で、「電子申請の実現で利便性が向上しました」なんてことが臆面もなく語られたりします。

しかし、「利便性が向上したか(便利であるかどうか)」は、利用者が実際に使ってみてから決めることであって、行政(サービス提供者)が決めることではありません。

他方、「利用者のコスト(負担軽減)」は、「手数料が割安」とか「即日完了」といった具合に、数字(金額、時間)として表れてきますので、利用者にとってもわかりやすいのです。(「利用者の手間・暇・お金を大切に」参照)

電子政府・電子申請サービスにおいては、安易に「利便性の向上」を語ることなく、利用者のコストを考え、それを軽減させることを目指しましょう。

「コストに見合う価値」が認められれば、利用率は自ずと増えるはずです。そして、実際の利用が進む中で、利用者が「利便性の向上」について判断すれば良いのです。

電子申請のスイッチング・コストを考えよう

スイッチング・コストとは、マーケティング用語の一つで、現在利用している商品やサービスから、他の商品・サービスへ移行する際に必要となるコストのことです。

下記図のとおり、現在稼動する電子申請を実際に利用しようとした場合、かなりのコストを必要としますので、手数料の割引ぐらいでは採算が取れません。コストは必ず発生しますので、できるだけコストを減らし、コストに見合う価値を提供することが大切です。

政府が宣伝するように「電子政府の利用=コスト削減」とはならないことを、国民は理解しています。利用者から見たコストを比較して、本当に「電子政府の利用=コスト削減」となっているのかチェックしましょう。

電子申請のスイッチング・コスト
種類 内容例
初期コスト 機器等の費用(パソコン、電子証明書、ICカードリーダー等)、通信費など
調査コスト 自分にとって必要なサービスを見つける。他のサービスと比較・検討する。利用方法について調べる。
準備コスト 事前登録、ソフトウェアのインストールなど。
学習コスト 説明書を読む。操作方法を覚える。
作業コスト 申請データを作成する。添付書類を揃える。申請(送信)する。結果を確認する。
心配コスト セキュリティやプライバシーへの不安。きちんと申請できるか。

利用者のコスト(負担)を軽減してくれる技術は歓迎

ZOOMA(ドリームテクノロジーズ社
http://sample.zooma.jp/ZOOMA/taguchi/zumen_midori/indexn.html
ウェブ上での図面閲覧等に利用できるものです。

利用例:防災情報提供システム(国土交通省)
http://www.qsr.mlit.go.jp/takeo/bousai/

電子入札では、入札に関する情報がインターネット経由で提供されます。なぜなら、入札に関する情報を、入札参加を希望する企業に対して、公平かつ過不足なく提供することが、電子入札を実現するための大前提だからです。

入札情報の閲覧に関して、利用者(建設業者、行政担当者)の負担を減らし、設計・施工・管理といった本来すべきことに集中・競争してもらえる環境を作ることが大切なのですね。

新しい技術の採用は、電子政府・電子申請を実現する上で必要不可欠ですが、リスクを考えて慎重に行うことも大切です。

ですが、もしその技術が「利用者のコスト」を減らしてくれるものであれば、採用してみる価値は高く、他の電子政府推進国に対しても提供できる可能性が高い(国際的な競争力を持っている)と言えるでしょう。


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