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パンダデート:お見合い

作:牟田学

しばらく続いた彼女と僕のパンダデートであるが

ここに来て、終わりを迎えることになりそうな予感である。

というのも、リンリンがお見合いのため

しばらく日本を離れてしまうからだ。


肝心のパンダがいなくなってしまうわけだから

パンダデートを続けるわけにはいかない。

仮にデートをしたとしても、それはパンダなしデート

つまり、単なるデートに過ぎない。


ここで、はたと考えてみる。

僕は彼女とデートがしたいのか。

それとも、パンダデートがしたいのかと。

これは、なかなか難しい問題である。


僕はパンダを見るのが大好きである。

それと同じくらい、パンダを見ている彼女を見るのが好きである。

パンダを見ている彼女の表情は様々に変わる。

時には子供のように無邪気に笑い

時には母のように優しい顔になり

時には何かを思い出すように寂しそうな顔をする。


パンダがいなくなってしまえば、

そんな彼女を見る楽しみもなくなってしまう。

これは困ったものだ。


かと言って、パンダなしデートで

彼女と映画を見たり

遊園地に行ったり

ウィンドウショッピングを楽しんだりすることは

あまり想像できない。

なんかしっくりこないのだ。


などと一人悩んでいるうちに

最後のパンダデートとなる月曜日がやってきた。

今週末にはリンリンはメキシコへ旅立ってしまう。


いつものように、僕は上野駅の公園口で彼女を待っている。

いつものように、彼女は少し遅れてやってくるに違いない。

彼女を待っている間、

通りを行き交う人たちの向こうに

パンダデートの行方を探す。


このままパンダデートを終わりにしてしまおうか

それとも、パンダなしデートの申込みをしてみようか。

パンダを探しに、街へデートに繰り出すのも悪くない。

しかし、いくら考えても結論が出てこない。

自分の優柔不断さが少し恨めしくなる。


そうこうしているうちに、彼女がやってきた。

珍しく、通りの向こうから手を振っている。

表情はいつもより楽しそうである。

それを見て僕の気持ちは決まった。


今日のパンダデートを心から楽しもう。

これが優柔不断な僕が出した結論である。

難しいことを考える必要はない。

そのうちリンリンも帰ってくるのだから

その時に、パンダデートの行方を考えても遅くないはずだ。


「遅い。」

そう言いながら、僕は彼女のおでこをはたく。

「痛っ。」

彼女は、反省する風もなく反撃を試みる。

僕は、そんな彼女の手を取って強く握る。

「ほら、行くぞ。リンリン様がお待ちかねだ。」

僕に引っ張られながら

観念した様子で、「はーい。」と答える彼女。


今日のパンダデートは楽しくなりそうだ。

思う存分、パンダの愛らしさに触れて

思う存分、彼女の表情を楽しもう。

そして、帰りにはいつものようにあんみつを食べよう。

彼女の3倍はおいしそうに食べる自信がある。

食べ終わった後には、もちろんこう言う。

「パンダ道の極意は、楽しく遊びおいしそうに食べること!」

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