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パンダデート:あんみつ

作:牟田学

僕たちのパンダデートは、

パンダに始まりパンダに終わる。

というわけでもない。

パンダデートなのに・・・と思うかもしれないが、

パンダに始まり、「あんみつ」に終わることになっている。


パンダを見た後は、動物園近くの甘味処でお茶をする。

それがパンダデートの締めくくり。

と言っても、あまりプライベートな話はしない。

思えば、お互いのことを詳しく知っていない。

好きな映画の話、面白かった本の話。

そんなところだろうか。


もちろん、パンダの話は欠かせない。

でも、彼女にパンダの愛らしさを語らせたら大変。

それはそれは夢中になって

パンダの魅力とは何ぞや。

といった感じで、延々とパンダトークが続くことになる。

しかも、言っていることは大体同じ。

可愛さの秘密はパンダオーラだと。

まあ、なんとなくわかるのだが。


そんな彼女の熱弁を終わらせたい時は、

僕が作ったパンダ物語を聞かせてあげることにしている。

我ながらバカバカしい物語だと思うのだが

そんな話でも、彼女は面白がってフンフンと聞いてくれる。

そんな彼女を見るのが僕の楽しみでもある。

語り手冥利というところか。

そう。例えば、こんな物語を。


「『パンダの王様』の話は知ってる?」

「なーに、それ?」


すでに彼女の目は、きらきらと好奇心に溢れている。

ものすごくわかりやすいヤツだ。


「竹林王国に住むパンダの王様の話さ。」

「あはは。面白そう。どんな話なの? 聞かせて聞かせて!」


彼女にせかされながら、僕はおもむろに語り始めた。


むかしむかし、竹林王国がありました。

その名の通り、竹林の美しい緑に囲まれた、とっても平和な王国でした。

竹林王国には、たくさんの動物が暮らしています。

キツネ、タヌキ、サル、ウサギ、ハムスター、キジ。

みんな仲良く暮らしていました。


「えー、ハムスターまでいるの?
それにキジとか言って、なんか桃太郎みたいじゃない。
ちくりんおうこく、ってのもねえ。」

いつものように厳しいツッコミが入るが、もう慣れっこになってる。

「ハムスターは可愛いからありなんだよ。
それに、犬はいないし、キビ団子も出てこないよ。」

「はーい。納得しました。」

今日は、わりと素直なようだ。


たくさんの動物がいましたが、

竹林王国で一番エライのは、パンダの王様でした。

どうしてパンダが王様かというと、

体が大きいからというわけではありません。

もちろん体が大きいパンダは、エッヘンポーズが一番似合うのですが。

さて、どうしてパンダが王様かというと、

それは、パンダが一番可愛らしかったからです。

竹林王国の動物たちは、

そんな可愛いパンダ王様が大好きでした。


「可愛いから王様かあ。
でも、エッヘンポーズってどんなポーズなの?」

「エッヘンポーズって言えば、
腰に両手を当てて、胸を前にグーッと突き出すポーズでしょ。
そんなの常識だよ。ジョーシキ。」

「あなたのジョーシキは、世間の非常識だもんね。」

口の減らないヤツだ。だが、そんなことにめげている暇はない。


みんなに愛されるパンダ王様は、

毎日おいしい笹の葉を食べながら、たいそう幸せに暮らしていました。

ところが、そんな幸せなパンダ王様にも、ひとつだけ悩みがありました。

その悩みは・・・

お肉が大好き!ということでした。

肉汁したたるステーキ!焼き方はもちろんレアで。

思い浮かべただけで・・・。あー、もうヨダレが!


「パンダがお肉好きって。いいのかなあ。」

「パンダは雑食性だから、お肉も食べるんだよ。」

「なるほどねぇ」

納得したところで、話しを進める。


でも、みんなに愛される可愛らしいパンダ王様が

おいしそうにお肉をむさぼることなど、

そんなお下品なことなど、許されるはずがありません。

むさぼるついでに、ガルル・・・とか言ってしまうかもしれません。

ああ、ボクのお肉ちゃん。

そう思いながら、

パンダ王様はモンモンとした日々を過ごすのでした。


あんまりモンモンとしていたので、

パンダ王様は、次第にやせ細っていきました。

家来たちが心配して、たくさんの笹の葉を持ってきてくれましたが

パンダ王様は、一向に太る気配がありません。

それどころか、やせ細っていくばかり。

もうエッヘンポーズも似合いません。


「エッヘンポーズが似合わないのは、パンダ一大事だわ。」

「なんだ。エッヘンポーズは非常識じゃなかったのか。」

「かわいそうだから、今さっきあたしの常識にしてあげたのよ。」

なんとも小憎らしい。

エッヘンポーズはいいから

たまには、ウッフンポーズぐらいしてみろと言いたいところだ。

が、「ウッフン」という言葉を発するのは

少しばかり恥ずかしいので

ここはぐっと堪えて、話を続けることにした。


心配した家来たちは、

遠くの国から、名医と名高いヤギドクターを連れてきました。

パンダ王様を診察したヤギドクターは言いました。

「これは心の病です。王様には大きな悩み事があるのでしょう。
それを解決してあげれば、すぐに良くなりますよ。」

さてさて。それを聞いた家来たちはビックリ。

いつものんびりしているパンダ王様が、そんなに悩んでいたなんて・・・

大急ぎでパンダ王様に尋ねました。


「王様、悩みがあるならお話しください。必ずや解決いたしますから。」

とても心配して尋ねてくるので、パンダ王様は思い切って言いました。

「実はボク、お肉が食べたいんだ。肉汁たっぷりの大きなお肉を。」

それを聞いた家来たちは、またまたビックリ。

そして大きな声で笑い出しました。

「なんだ、王様。そんなことでしたか。
お肉が食べたければ、好きなだけ食べて良いのですよ。」


それを聞いて、パンダ王様は大喜び。

嬉しそうに言いました。

「えっ?ホントに? ボクは可愛いパンダだけど、お肉を食べてもいいの?」

「もちろんですとも。ただし、約束して頂きたいことがあります。」

今度はちょっぴり不安になって、王様が言いました。

「えっ?どんな約束なの?」

「それは、お肉を食べる時、笑顔でおいしそうに食べること。
そして、お肉だけでなく、笹の葉もたくさん食べることです。」

「なんだぁ、そんなことかあ。うんうん、守るよ。
大好きなお肉が食べられるなら、ボクきちんと約束守るよ。」


大好きなお肉が食べられるようになったパンダ王様は、

みるみる元に戻って、エッヘンポーズも似合うようになりました。

でも、焼き方はレアじゃなくてミディアムレアです。

レアで食べると、パンダ王様の白い口元が鮮血で汚れてしまうから。


平和な竹林王国では

今日もパンダ王様が

お肉と笹の葉を笑顔でモリモリ食べています。

めでたし、めでたし。


「いい話ねえ。」

話を終えると、彼女から意外な応えが返ってきた。

あまりのくだらなさに、すっかりあきれてると思ったのだが。

「そ、そうか。いい話かな。」

「うん、いい話よ。やっぱり何でもおいしく食べないとダメよね。」

「そうそう、それがパンダ道の基本だからね。」

そう言いながら、おいそうにあんみつをパクリと食べて見せた。

それを見て、彼女も負けじとおいしそうに食べてみせる。


「このお話、実はイソップ物語のように寓話になっているんだ。」

「ぐうわ?」

「そう、教訓を多分に含んでいるってことだよ。
つまり、何でもおいしくモリモリ食べれば、とっても可愛くなれるって教えさ。
無理なダイエットをする昨今の女性への教訓だな。」

「うーん。なんか無理やり。
確かにパンダは可愛いけど、あの体型になるのはかなりの勇気がいるなあ。」

彼女にいい話だと褒められて、どうやら少し調子に乗ってしまったようだ。


パンダに始まり、あんみつで終わるはずのパンダデートだけど、

やっぱりパンダで終わってるかもしれないな。

いや、僕はパンダの向こうに常に彼女を見ているわけだから

パンダではなく、彼女で終わっているのかもしれない。

そんなことを考えながら、今日もパンダデートは終わっていった。

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