電子政府の評価メモ

本ページは、作者(牟田)による私的メモである。最終更新:2007/3/23

はじめに

評価実施時の注意点

評価実施の流れ

電子政府とは

電子政府がもたらす恩恵(利益、成果)とは

日本の電子政府における評価対象とは
・評価対象の整理(評価のポイント)

評価手法、評価指標の決め方
パスポート電子申請の例

評価と指示の種類

投入資源(インプット)の調査と公開

「利用者満足度」指標の共通化・標準化

体制・組織の評価

インフラの評価

電子行政サービスの評価
主な電子申請サービスの比較
手続や添付書類の廃止・簡略化の評価ポイント
電子申請のインセンティブ

業務システム最適化の評価

電子入札・調達の評価

参考資料・リンク


はじめに 目次へ

電子政府の評価については、多くの電子政府先進国や国際機関等で検討されている。

これらを理解し、実践する流れとしては、

  1. 電子政府に関する基本政策(ポリシー)・戦略・行動計画(アクションプラン、プロジェクト)などを知る
  2. 電子政府に関する構築・管理・運営(マネジメント)手法を学ぶ
  3. 電子政府に関する評価(事前および事後、アセスメント、ベンチマーク)事例を知る
  4. 電子政府に関する評価手法を学ぶ
  5. 適切と考えられる評価手法を応用して、電子政府の各施策等を評価する。

とするのが良いだろう。

しかし、実際には「電子政府」というくくりだけでなく、社会・経済政策、IT戦略、IT投資管理(eガバナンス)、行政サービス、行政改革、行政経営、ガバナンス(いわゆる「ITガバナンス」ではなくて、「政府による統治のあり方・仕組み」といったより広い概念)などの観点から理解していく必要がある。

なぜなら、電子政府は、単なる情報化・電子化ではなく、構造改革であり、行政改革であり、組織文化、そして各人の意識の変革を目指すものだからである。

だからこそ、電子政府の評価は、単なるシステムの評価に終わることなく、政府(行政)の改革・変革のプロセスと成果を評価するものでなければいけない。

適切な評価体制を伴った政府による改革の意思表示と実践は、国民の支持を得ると共に、電子政府への信頼性を高めてくれるだろう。


評価実施時の注意点 目次へ

評価を実践していく場合、次の3点に注意したい。

  1. 評価のための評価とならないこと

    体系化された手法を用いて評価する場合、完璧に実践しようとすると、かなりの負担となり、時間も労力もかかる。通常、評価につぎ込める資源(人、お金、時間)は多くないので、予算等に応じた現実的な対応が必要である。

    そのためには、ポイントを押さえた最小限の評価(「身の丈に合った評価」)から始めるのが良いだろう。

  2. 評価が骨抜きにならないこと

    海外の手法を用いて評価する場合、日本向けにアレンジする際に、ポイントがずれてしまう場合がある。評価は、わかりやすい指標で簡潔に実践していくことが大切であるが、押さえるべき点は押さえておかないと、中身のない形式的な評価となってしまう。

    そのためにも、オリジナル(原文)を参照しておくことが大切となる。

  3. 国民への説明責任をおろそかにしないこと

    電子政府の評価は、本来であれば、国民を中心とした様々な視点から行われることが望ましい(マーケティングと監視・評価マーケティングと評価(改善)の仕組みが必須)。評価の基準や指標は、できる限りわかりやすいものとして、評価の過程(プロセス)から結果の公表まで、情報公開を徹底していくことが必要となる。

    電子政府の評価は、国民からの理解と信頼を得るために行われるものである。国民の理解と信頼が無い限り、実際の利用・普及は進まないと考えたい。

評価実施の流れ 目次へ

具体的には、次のような流れで評価していくことになる。

  1. 評価の対象と範囲を決める
  2. 評価指標を決める
  3. 調査する(データの収集と整理)
  4. 評価する(確認、検討、比較など)
  5. 助言・勧告する

    ※評価の過程と結果については、速やかに、国民に公開すること

大切なのは、全体のバランスを考慮しながら、中・長期的な視点で、評価していくことである。

なぜなら、評価の対象となる施策等(体制と組織、インフラ、住民・企業向けサービス、行政業務システム、人材の育成と活用など)は、相互に関係し影響を与え合うものであり、限られた分野だけを短期的に見ていても、全体の底上げ、そして実際の利用・普及に繋がらないからである。

電子申請だけ、業務システムの最適化だけといった評価は、できれば避けた方が良い。


電子政府とは 目次へ

評価の対象が「電子政府」である以上、「電子政府」を簡単に定義しておこう。

電子政府は、およそ次の要素で構成される。

  1. 電子行政サービス(公共サービス)
  2. 電子行政マネジメント(行政経営・管理・改革)
  3. 電子デモクラシー(国民参加:電子会議室、パブコメ、地域SNS、電子投票など)
  4. 電子取引(公共調達、公売)
  5. その他(電子司法、電子立法)

電子政府を評価する場合、1と2(4を含む)を中心としながら、3の要素を上手に取り込む必要がある。

つまり、

などをチェックしていくことになる。

参考:Assessing E-government progress? (PDF:ノルウェー・オスロ大学)How to Evaluate E-Government? (PDF:国連)


電子政府がもたらす恩恵(利益、成果)とは 目次へ

電子政府がもたらす利益は、次のように分類できる。

  1. 国民の利益(サービスの利用)

    例:電子申請の利益=節約された時間やお金−準備等にかかる費用

  2. 行政の利益(業務の効率化)

    例:給与システム標準化の利益=節約できた労力や維持管理費−開発・維持等にかかる費用

  3. 社会・経済の利益(失業率の低下、国民総生産の増加、企業の競争力・技術力の向上)

    例:住基カードの開発により、ICカードの技術力が向上した

  4. ガバナンス(政府全体)の利益

    例:透明性の向上、説明責任の実行、市民参加の拡大(街づくり、政策決定など)

電子政府の施策を評価する場合、基本的には、直接的な利益である1と2に重点を置くことになるが、3や4の視点からも施策の価値を判断する必要がある。

日本の電子政府は、コスト意識に欠けるものが多く、1と2の利益を軽視してきた。

政策的・戦略的に重要な施策ほど、費用対効果が考慮されない傾向にあるので、徹底的な費用対効果の検証から始めるのが良いだろう。

なお、電子政府の利益とコストについては、OECDによる「Proposal for Work on an Inventory of E-Government Business Case Indicators(wordファイル)」(2006年2月)が、先進国の比較を含め、より詳細に整理している。


日本の電子政府における評価対象とは 目次へ

電子政府を評価する場合、評価の対象は、いわゆる「IT投資・IT調達」に限らない。むしろ、まず基本となるのは、「体制と組織」や「人材の育成と活用」などへの評価である。

なぜなら、「体制と組織」や「人材の育成と活用」は、電子政府に対する「政府の本気度・実践度」を計る指標となるからである。「体制と組織」が不十分なままでは、IT投資・IT調達を適切に評価することもできない。

「体制と組織」や「人材の育成と活用」の評価については、投入資源(インプット)として、個別の電子政府施策の中で評価することも必要となる。

具体的な評価の対象と範囲は、政府が掲げる基本戦略や計画等を踏まえて、必要と思われるものを選び、その中で、相互の関連性に注意しながら、優先順位をつけていくのが良いだろう。

なお、情報セキュリティ関連については、別段の評価が必要となる。

評価対象の整理(評価のポイント)

  IT新改革戦略重点計画2006 評価のポイント(指標例)
体制と組織 ・CIO連絡会議
・PMO(プログラム・マネジメント・オフィス)
・電子政府推進管理室
・電子政府評価委員会
・電子政府利用推進員
・組織の種類(名称と所管)
・権限と責任
・予算
・人材(人数、専属、外部人材など)
・活動状況
・実績
人材の育成と活用 ・CIO補佐官の活用
・「IT人材育成指針」の策定
・自治体CIO育成研修カリキュラム
・予算
・民間人材の人数と配置
・関連資格者の人数
・プロジェクト管理者の人数
・研修等の実施状況
・官民学連携の実施状況
インフラの整備 ・公的個人認証サービス
・住民基本台帳ネットワーク
・総合行政ネットワーク(LGWAN)
・霞ヶ関WAN
・政府認証基盤(GPKI,LGPKI)
・住基カード
・地域情報プラットフォーム
・次世代電子政府構築の検討
・電子政府OSセキュリティ
・IPv6 ネットワーク整備ガイドライン
・費用(構築、運用、将来予想)
・利用状況
・利用者満足度(国民、行政)
・インフラ間の連携
・代替手段の検討状況
電子行政サービスの実施 ・オンライン利用促進行動計画
  インセンティブ措置
  登記(不動産、商業登記)
  全国登記所のオンライン化
  国税
  社会保険・労働保険
・自動車保有関係手続
・電子政府の総合窓口(e-Gov)
・電子自治体オンライン利用促進
  地方税の電子申告
  ICカード活用の公共サービス
  公的個人認証対応の電子申請
・地理情報システム(GIS)の利用
・実施体制(所管、人材)
・費用(構築、運用、将来予想)
・利用状況(件数、利用率)
・利用者のコスト(時間、費用)
・利用者満足度(国民、行政)
・利用者の参加度
・インセンティブ措置と効果
・広報の実施と効果
・サービス間の連携・統合
業務・システムの効率化 ・レガシーシステムの見直し
・業務・システム最適化計画(地方、国)
・各府省共通システムの共同利用
・地方公共団体への調査・照会業務
・地方公共団体のデータ標準化
・共同アウトソーシング推進(地方)
・独立行政法人等の最適化
・地域情報化ナレッジベース
・実施体制(所管、人材)
・費用(構築、運用、将来予想)
・削減コスト(時間、人件費)
・スケジュールの管理
・品質の管理
・利用状況
・利用者満足度(行政)
・利用者の参加度
・システム間の連携・統合
電子取引 ・情報システム政府調達の基本指針
・電子入札の推進
・費用(構築、運用、将来予想)
・利用状況(件数、利用率)
・利用者のコスト(時間、費用)
・利用者満足度(国民、行政)
・利用者の参加度
・競争性の向上(地域、参加企業数)
・収益性の向上(落札率・価格)
・品質の向上(工事、サービス)
・透明性の向上(談合・不正取引率)
・サービス間の連携・統合

評価手法、評価指標の決め方 目次へ

IT投資や電子政府の管理・評価について、日本は、まだ未成熟であり、体制も整っていない。そうした状況の中で、いきなり複雑な評価手法や指標を採用しても、十分に使いこなすことは難しく、文書の作成・管理・修正に追われることになる。

身の丈にあった評価で、確実にPDCAを回していくことを心がけたい。

日本語の資料としては、

平成17年度調達モデル研究会 報告書
http://www.nmda.or.jp/choutatsumodel/index3.html
具体的な指標例が提示されている。地方自治体向けであるが、国の電子政府評価でも使える。

PRMを用いたITポートフォリオモデル活用ガイド・サマリー
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/data/report/r21/index.html
米国政府の手法を基礎とした業績評価のガイドブック。

などがあり、これらを実践・応用していくことで、一通りの評価はできるだろう。

マーケティングの観点からも、「利用者の参加度」などは大切にしたい。

なお、IT新改革戦略で掲げる評価指標は、次の通り。

  1. 申請・届出等におけるオンライン利用率
  2. 申請・届出等に申請者が要する時間・費用
  3. 政府のポータルサイトの利用件数
  4. 情報システム関係経費の削減効果、業務処理時間・定員の削減効果
  5. 公共サービスにおけるIC カードの導入状況とこれを用いた公共サービスの向上の状況

作者が重要と考えるのは、今まであまり考慮されてこなかった「申請者が要する時間・費用」であるが、大切なのは、利用者の視点で時間と費用を算出することである。

参考として、パスポート電子申請の例を挙げておく。

参考:IT投資対効果に関する調査報告書ITIM (Information Technology Investment Management) 2004年3月改訂版(バージョン1.1)FEA Reference ModelsGovernment Auditing Standards(米国政府監査基準)パスポート電子申請の停止について


評価と指示の種類 目次へ

投資内容、経過、成果等を踏まえて行う評価と指示は、次のように分類できる。

  1. 良:継続
  2. 可:改善を指示
  3. 条件付で可:縮小、分離、統合、代替措置など
  4. 不可:予算凍結して廃止

2までが合格ラインであり、3以下は不合格となる。3と4は、会社で言えば、事業整理や企業再生にあたる。

4については、他の電子政府施策に与える影響も考慮する必要がある。特に、インフラ(住基ネット、公的個人認証サービスなど)の廃止は、他のシステムやサービスに与える影響も大きいので、代替措置等の検討を十分に行うこと必要である。

作者が勧める電子政府施策の展開は、

電子申請サービスを例にすれば、利用者の厳しい目に触れ、高い満足度を維持し、競争に勝ち残ったものを、電子申請サービスの標準とするのが良い。

サービスのあり方は、国民や市場が決めるものである。

「電子署名」が電子申請の利用を妨げていると言われるのは、「電子署名」が良くないからではない。「市場や国民の意向を無視して、電子署名の利用を押し付ける」のが良くないのである。

国民が求めているのは、電子署名や電子申請ではなく、「安心して利用できる便利なサービス」であることを理解したい。

参考:オンライン利用促進のための行動計画e-Gov電子申請システム国税電子申告・納税システム(e-Tax)のアンケート実施結果


投入資源(インプット)の調査と公開 目次へ

電子政府を実現するためには、お金がかかる。税金を投資するからには、それに見合う価値(成果)を生み出すことが要求される。

投資 → 計画 → 実行 → 結果 → 成果 → 改善 

といった流れの中で、投入資源がわからないと、効果測定や評価はできない。

資源と言えば、「人・物・金」であるが、電子政府の評価では、「お金」と「時間」に焦点を当てたい。時系列でお金の流れを整理することで、費用対効果を測定し、今後の展開を予想できるからである。何より、誰が見てもわかりやすい。

例えば、ある電子申請サービスについて、次のように整理されたデータがあれば、評価しやすくなる。こうした情報を公開すれば、国民への説明責任にも貢献できる。

年度 2001 2002 2003 2004 2005 2006(予想) 2007(予想) 2008(予想)
段階 開発 実証 一部運用 本運用 運用 運用 運用 運用
投資金額(予算) 30億円 10億円 15億円 10億円 5億円 5億円 5億円 5億円
一件あたりの金額
(紙申請:2500円)
- - 300万円 50万円 10万円 7.1万円 5万円 2万円
利用件数 - - 500件 2000件 5000件 7000件 10000件 25000件
利用率 - - 0.1% 0.4% 1.0% 1.4% 2.0% 5%
認知度 - - 5% 7% 10% 20% 35% 50%
満足度
(民間平均:67点)
- 40点 50点 50点 55点 60点 65点 70点
宣伝・販促費     0.1億円 0.2億円 1億円 1.5億円 2億円 2億円

「お金」や「利用件数・利用率」と言った誰でも理解できる指標と、利用者の視点に立った指標(認知度、満足度)を対比させることで、「どれだけ国民に利便性をもたらしているか」、あるいは「どれだけ無駄に税金が使われているか」が明らかになってくる。

評価の重要な判断材料である投入資源(インプット)の指標は、

・費用対効果がわかるもの
・問題点の発見に繋がるもの
・国民が知りたいもの、国民の理解を助けるもの
・担当職員やCIO補佐官等が伝えたいもの(失敗の理由など)

などの観点から選んでいくのが良いだろう。

参考:高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する予算予算及び決算の概要みえ政策評価システム各府省等におけるコンピュータシステムに関する会計検査の結果(PDF:18年10月25日報告) 全文PDF


利用者満足度の共通化・標準化 目次へ

利用者(国民、行政職員など)の満足度は、認知度と共に、重要な評価指標となる。

電子政府先進国と言われる国では、利用者満足度等の調査結果を踏まえて、地道にサービスを改善する努力を怠らないのである。

日本の場合、平成17年度電子政府基本調査結果によると、電子申請の利用者満足度調査を行っている省庁は、わずか2割程度となっており(ホームページの満足度調査でも約3割)、評価うんぬん以前のレベルにあるのが現状と言えるだろう。

まずは、満足度、認知度、期待度(重要度)など、国民が電子政府についてどのように思っているかを、電子政府推進キャンペーンの一環として、国全体で、定期的に調査することから始めたい。その際には、最低でも1年に一回、できれば1年に数回行うのが良い。

米国では、電子政府サイトの満足度を、四半期ごとに行い、その結果を民間サービスと比較できるようになっている。

日本でも、代表的な電子政府サイトや重点的に推進したいサービスを選び、定期的に満足度等を計測し、公開し、向上させる努力を続ける必要がある。

なお、当然ながら、利用者の満足度等を把握することさえせずに、利用率の低迷を続けるなど、成果を上げられない施策・サービスには、厳しい評価と措置が下されることになる。

日本でも、電子申告における取組み(国税電子申告・納税システムのアンケート実施結果)のように、少しずつであるが利用者満足度等の測定・分析が行われるようになった。地方支局等による取組み(道路占用許認可申請の電子化の現状と課題)も注目に値する。

こうした取組みの如何によって、今後は「使われる電子申請」と「使われない電子申請」の格差が広がっていくと思われる。

参考:AmericAn customer sAtisfAction index:e-Government sAtisfAction index (2006年3月)(米国)|e-Government Customer Perception Survey Conducted in 2006 (For Year 2005)(シンガポール)|Australians’ Use of and Satisfaction with e-Government Services(オーストラリア:2005年)|道路IR・利用者満足度(国土交通省道路局)市民満足度等に関する調査報告書(藤沢市)公共サービスの改革に関する特別世論調査(内閣府:PDF)社会保険庁:電子申請に関するアンケート結果(平成18年度電子政府利用促進週間に実施)についてパイロット調査の結果、オンライン利用申請に係るアンケート結果(電子政府評価委員会第7回)


体制・組織の評価 目次へ

 

参考:平成17年度電子政府基本調査結果(PDF)


インフラの評価 目次へ

情報・技術系のインフラ:お金と技術力が物を言う。投資戦略が難しく、負の遺産となるリスクが大きい。

組織・文化系のインフラ:国の歴史、法制度、国民性、文化背景などに配慮が必要。


電子行政サービスの評価 目次へ

電子行政サービスの評価は、手続や行政機関ごとではなく、利用者視点で考えた「サービス」ごとの評価をするようにしたい。

例:不動産登記に関するサービス、税務に関するサービスなど

また、各サービスとの関連性・相互依存性を明確にする必要があるが、これも「利用者の視点」で整理するようにする。

例:会社設立時の手続、家を買ったときの手続、引っ越したときの手続など

しかしながら、最初から全部できる「ワンストップサービス」を目指す必要は無い。特に申請者の負担となっている部分からサービスを実施することで、失敗や過大投資のリスクを減らしつつ、シンプルでわかりやすいサービスを実現できるからである。

具体的な調査項目・評価指標としては、

・サービスごとの年間予算(うちオンライン化にかかる予算)
・公務員(非公務員)数、役所の数
・主なサービス利用者
・利用状況
・利用者視点の手続フロー(申請者が要する費用・時間)
・利用者の満足度(不満を感じる点)
・利用者の参加度
・インセンティブ措置と効果
・広報の実施と効果
・サービス間の連携・統合

などが挙げられる。(作者が提案する電子政府・電子申請サービスの評価指標も参考にして欲しい。)

上記の項目を、紙とオンラインの両者について調査し整理する。その結果、

・予算の妥当性
・サービスの必要性
・サービスの品質
・利用者ニーズとのギャップ
・手続簡素化の可能性

が見えてくるので、それらを踏まえて今後の展開を決めれば良い。

図表:主な電子申請サービスの比較

参考>>住基カード:約91万枚(18年3月)|公的個人認証:約10万4千枚(17年11月)

分野 手続 システム 年間件数 利用率
16年
17年 受付時間 署名 添付 ソフトウェア その他
登記 不動産登記申請 法務省 オンライン申請システム 14,119,000   2.00% 平日8:30-20:00 登記申請書作成支援ソフト 登記識別情報
登記 登記事項証明書の送付請求(不動産) 法務省 オンライン申請システム 284,049,000 8.43% 11.24% 平日8:30-20:00(19:00) × × 登記申請書作成支援ソフト 登記情報提供サービス
登記 商業・法人登記申請 法務省 オンライン申請システム 2,120,000 0.73% 1.08% 平日8:30-20:00 登記申請書作成支援ソフト  
登記 登記事項証明書の送付請求(商業) 法務省 オンライン申請システム 77,510,000 8.35% 11.70% 平日8:30-20:00(19:00) × 登記申請書作成支援ソフト 登記情報提供サービス
登記 登記事項証明書の送付請求(成年後見) 法務省 オンライン申請システム 897,000 6.01% 43.76% 平日8:30-20:00    
税務 国税申告手続 【e−Tax】国税電子申告・納税システム 26,541,000 0.20% 0.41% 平日9:00-21:00(申告期延長あり) e-Taxソフト アンケート結果
社会・労働保険 健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届 厚生労働省電子申請・届出システム 33,055,000 0.00% 0.00% 24時間365日 ×    
社会・労働保険 雇用保険被保険者資格取得届 厚生労働省電子申請・届出システム 7,225,000 0.02% 0.05% 24時間365日    
社会・労働保険 概算・増加概算・確定保険料申告書 労働保険適用徴収・電子申請 1,926,000 0.02% 0.06% 24時間365日 ×    
社会・労働保険 自動車の新規登録、新規検査 自動車保有関係手続のワンストップサービス 3,500,000   0.01% 24時間365日    

サービスが利用されない理由は、

  1. サービスの存在を知らない(広報の不足:認知度)
  2. 望まれるサービスではない(ニーズに合っていない:利用者参加度)
  3. 適正な価格(利用コスト)ではない(コスト削減・簡素化の不足:初期費用、準備時間、処理・完了時間)
  4. 提供手段が適切ではない(新たな機器やソフトが必要になる:利用方法の選択肢)
  5. サービスに魅力がない(メリットが見えない:紙との差別化、インセンティブの提供)
    参照>>電子申請のインセンティブ

などが考えられる。各項目で合格点が取れないと、実際の利用は進まない。残念ながら、現在のオンライン行政サービスで、合格点を取れているものは、ほとんど無いというのが現実だろう。

合格点を取るためには、企画等の初期段階から、利用者を参加させることが大切である。利用者参加を経ないで作成された基本仕様書の多くは、そのサービスが利用されないことを確信させるものである。

なお、平成17年度電子政府基本調査結果によると、情報システムを導入/再構築する際の「業務の見直し」について、8割以上の省庁が、把握・評価をほとんど又は全くしていないとなっている。

公共サービスの改革に関する特別世論調査(PDF)を見ても、多くの国民が「手続の簡略化」を望んでいることがわかる。

電子申請の「利用率」は評価指標として大切であるが、「手続や添付書類の廃止・簡略化」については、「利用率」以上に高い評価を与えなければ、「業務の見直し」が進まないことになる。

また、国民だけでなく、行政職員に対して、どのようなインセンティブを提供できるかが、電子行政サービス向上の鍵となる。

図表:手続や添付書類の廃止・簡略化の評価ポイント

評価項目 重要度 現状 評価のポイント
手続きの廃止 A 利用者(国民、行政職員)の負担を軽減する最も有効な措置で、高く評価する必要がある。
添付書類の廃止 A × 利用者の負担を軽減し、オンライン化を実施しやすくなるので、高く評価する必要がある。
添付書類の一部省略 C 利用者の負担があまり軽減されない場合も多く、評価にあたっては注意が必要。
利用者作業数(ステップ)の削減 B × 5ステップぐらい(アクセス、選択、記入、確認、送信、結果通知)で完結できることが理想で、10ステップ以上はマイナス評価としたい。
例:不動産登記の電子申請では30近くの作業が必要となっている。
利用者作業時間の削減 B × 作業数と関係が深いが、作業数が少なくても、一つの作業に多大な時間を必要とすれば、利用者の負担は大きい。各ステップにかかる平均時間から、利用者が費やす総時間を算出する。
処理時間の削減 B × 利用者作業時間+処理時間=「サービスの開始から完了までの時間」となる。行政事務処理の効率化・電子化と関係が深く、処理時間の目標値を定めることで(品質を落とさないことが条件)、業務改革が促進される効果もある。即日〜1週間以内が許容範囲であり、10営業日以上はマイナス評価としたい。
例:国税申告手続(電子申告だと還付が6週間から3週間になる予定)
例:特殊車両通行許可申請(紙だと3週間かかるが電子だと最短で4日間)
書類記入の簡素化 C 申請者情報以外は、原則として選択性とすることが望ましい。同じことの複数回記入、一般的でない表現や用語の使用、小さすぎる文字や記入欄などは、マイナス評価となる。
提出方法の選択肢 C 窓口提出(持参)、郵送、インターネット(ウェブ、電子メール)など。選択肢が多い方が良いが、セキュリティへの配慮(郵送時の紛失など)が必要。窓口提出(持参)、郵送、インターネット(ウェブ、電子メール)、電話など。費用対効果の高い方法への誘導、使われない選択肢の廃止・統合なども大切。
受付窓口の統合化 B 一つの窓口で提出すれば済み、かつ最寄の窓口で提出できるのが良い。同じものを複数の行政機関に提出する、地域によって提出窓口が異なる、などはマイナス評価となる。

「手続や添付書類の廃止・簡略化」の多くは、オンライン化と関係なく、紙の手続きでもできる。紙で出来ることを徹底的にやってから、オンライン化するようにしたい。つまり、行政手続の最適化(全体・個別)が不十分と言うことである。

現状を見ると、どれも改善の余地が多く、「使ってもらえる」レベルに達していないと言えるだろう。

なお、利用促進のインセンティブについては、電子申請のインセンティブを参照してください。

参考:行政手続オンライン化法第10条に基づく公表(実施・利用状況)|オンライン利用促進のための行動計画(重点分野と手続、対応策など)| 「公共サービスの世論調査」から学ぶ、電子政府サービスのあり方電子政府・電子申請サービスの評価指標


業務システム最適化の評価 目次へ

現在の課題は、

  1. 全体の統合・調整・順位付けができていない
  2. 最初のチェック(予算付け)が不十分
  3. 実行時のチェック(追跡と監視)が不十分
  4. ニーズの把握ができていない(利用者不在)
  5. 品質管理ができていない(設計、契約の不備)

その結果、

といったことになっている。

が必要である。

利用者の参加度(企画、設計、テスト、実施、事後評価など)
・システム最適化→人事システム(各省庁の人事担当者が参加するべき、SLAの要件定義)

現在までの実施状況や評価(課題、対策など)は、次の資料が参考となる。
府省共通業務・システム及び一部関係府省業務・システムの平成17年度最適化実施の評価結果(案)
個別府省業務・システムの平成17年度最適化実施の評価結果
府省共通業務・システム、一部関係府省業務・システム及び個別府省業務・システムの平成17年度最適化実施状況報告書

参考:業務・システム最適化実施の評価指針(ガイドライン)(PDF) OMB EA Assessment Framework Version 2.0崖っぷち!電子政府〜迷走する4500億円プロジェクトの行方(ITmedia)


電子入札・調達の評価 目次へ

 


 

参考資料 目次へ

(1)電子政府に関する戦略、マネジメント、ガバナンス

Singapore i-Government
http://www.igov.gov.sg/
シンガポールの電子政府新戦略。

Government On-Line 2006
http://www.gol-ged.gc.ca/rpt2006/rpt/rpttb_e.asp
カナダ政府による電子政府の2006年度報告。マネジメントや組織連携などの手法を紹介。

 

(2)利用者の調査(顧客満足度、認知度、期待度など)

e-Government Customer Perception Survey Conducted in 2006 (For Year 2005)
http://www.ida.gov.sg/idaweb/factfigure/infopage.jsp?infopagecategory=&infopageid=I3845&versionid=7
シンガポール政府による電子政府利用者調査レポート。
利用する人、利用しない人の理由や特性がわかる。

E-government Benefits Study
http://www.agimo.gov.au/government/benefits_study
オーストラリア政府による電子政府がもたらす恩恵(利益、メリット)の調査レポート。

 

(3)EA関連

EAの構築やIT調達の管理・評価については、経済産業省や関連機関等の調査・研究により、日本語でまとめられた資料が数多く提供されているので、参考にすると良い。しかしながら、代表的な文献については、原文(英語)を読んで理解を深めたい。

EAポータル
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/index.html
経済産業省によるEA関連の情報サイト。
ここにある報告書を一通り読めば、EAの概要からマネジメント、評価等が理解できる。

Consolidated Reference Model (CRM) Version 2.0
June 2006.
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/a-2-EAModelsNEW2.html

BUSINESS REFERENCE MODEL (BRM)
Services for Citizens
http://www.whitehouse.gov/omb/egov/a-3-2-services.html

(4)IT投資・調達(運用・管理・評価)

PRMを用いたITポートフォリオモデル活用ガイド・サマリー
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ea/data/report/r21/index.html
米国政府の手法を基礎とした業績評価のガイドブック。日本の電子政府については、これを実践していくのが良いだろう。

 

ITIM (Information Technology Investment Management) 2004年3月改訂版(バージョン1.1)
A Framework for Assessing and Improving Process Maturity
米国政府機関(GAO)によるIT調達の管理手法ガイド。

関連>>IT投資効果を見極めるための努力(NTT DATA)ITIM(ITpro 電子行政 用語解説)

OGC - Home
Programme and Project Management
http://www.ogc.gov.uk/index.asp?id=377
英国政府による政府調達の管理手法と事例。

OGC - IT Infrastructure Library (ITIL)
http://www.itil.co.uk/
英国商務局(OGC : Office of Government Commerce)による、ITサービスの管理・運用ガイドブック(事例集)。認証・資格ビジネス化しており、関連資料は原則として有償提供となっている。

関連>>運用管理のベストプラクティス集「ITIL」とは何か?(ITmedia)ITIL (@IT 情報マネジメント用語事典)

カナダ予算庁(TBCS)

Benchmarking e-Government in Europe and the US
Published 2003 by RAND

The 2005 e-readiness rankings
A white paper from the Economist Intelligence Unit


Digital Governance in Municipalities Worldwide (2005)
A Longitudinal Assessment of Municipal Websites Throughout the World

AmericAn customer sAtisfAction index e-Government
sAtisfAction index
mArch 21, 2006

E-Strategies MONITORING AND EVALUATION T OOLKIT
World Bank
January 2005
http://www.worldbank.org/ict/

OVERARCHING REGULATORY IMPACT ASSESSMENT

Twenty Five Steps to Successful e-Governance

OECD E-Government Project
Proposal for Work on an Inventory of E-Government Business Case Indicators
6 February 2006

Federal Enterprise Architecture Program
EA Assessment Framework 2.0
December 2005

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