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電子申請の8原則 2003年12月24日

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作者が提唱する「電子申請の8原則」を紹介するページです。電子申請を初めとした、電子政府・電子自治体によるオンラインサービスを考える上で、必須となる要素をまとめています。
はじめに
作者は、ホームページ開設当初から電子申請の可能性を考えてきましたが、一区切りつける意味も込めて、「電子申請の8原則」というものを提唱してみたいと思います。

電子政府や電子行政サービスについては、国連やOECDなどの国際的な組織、世界各国の政府や企業、研究機関等によって、様々な調査・研究が行われ、目指すべきものが次第に明確になりつつあります。

「電子申請の8原則」は、そうした調査・研究結果や電子政府先進国の現状等を踏まえて、作者なりにまとめたものであり、電子申請に限らず、電子政府や電子自治体全般に通じるものにしています。

この原則が、電子申請システムを構築する際の設計思想となり、すでに運用されている電子申請を評価・改善する際の参考としてもらえれば嬉しく思います。

電子申請の8原則
  1. 社会性・公共性

    電子申請は、利用されることによって、社会的に認められる存在となる。

  2. 安全性・信頼性

    自己責任で利用するためのルールが必要である。

  3. 簡易性・容易性

    容易に理解でき、誰でも使いこなせるものでなければいけない。

  4. 利便性・実用性

    利用のメリットを実感できなければいけない。

  5. 経済性・効率性

    費用に見合った価値を生み出すことが求められる。

  6. 継続性・拡張性

    ニーズや技術の変化に柔軟・迅速に対応できるようにする。

  7. 汎用性・相互運用性

    役所の手続だから特別だと考えてはいけない。

  8. 市民性・公開性

    利用者の視点がない限り、市民から理解と信頼は得られない。

電子申請の8原則:作者による解説
1 社会性・公共性

電子申請は社会性と公共性を持たなければいけない。利用されない電子申請は、社会性・公共性を持ち得ない。

電子申請は、インターネットがそうであるように、利用されることによって、社会・経済活動の発展に大きく貢献することができる。こうした電子申請の社会に対する貢献が実績となることで、社会的に広く認知・評価されるのである。

社会性と公共性を備えた電子申請の恩恵は、実際に電子申請を利用する人だけでなく、間接的に全ての市民が受けられるものである。

デジタルデバイドを理由に、電子申請がもたらす社会・経済的なメリットが受けられないとすれば、その電子申請は、社会性と公共性を備えていないと言える。

2 安全性・信頼性

電子申請は、一定の基準を満たす安全性と信頼性を持たなければいけない。それは、定められたルールに従うことで、事態を把握・予測・防止(回避)できることを意味する。

電子申請の利用は、利用者の自己責任として行われる。そのためには、公平で理解しやすいルール作り、適切な情報公開と説明、責任範囲の明確化、予測されるトラブルとその対応(危機管理)、代替手段(紙申請等の選択肢)の提供などが必要となる。

電子申請の安全性・信頼性は、最新で高価なセキュリティ技術を使うことで実現できるものではない。採用する情報セキュリティ手段が、他の原則を著しく害する場合は、別の手段を考える必要がある。

電子署名やICカードなど一般的に普及・認知されていない技術を採用する場合は、入念な事前調査・戦略・マーケティングが必要となる。

3 簡易性・容易性

電子申請は、理解が容易で誰でも使いこなせるものでなければいけない。それは、一般的に普及している環境と手法により利用できること、利用にあたって新たな投資や知識を必要としないことを意味する。

オンラインショッピングを楽しみ、オンラインバンキングやオンライントレードを利用する人が、電子申請を利用する際に、多くの戸惑い・不便・面倒を感じるのであれば、その電子申請は失敗作と考えるべきである。

4 利便性・実用性

電子申請は、利便性と実用性を備えていなければいけない。それは、電子申請を利用することで、市民や行政職員の労力・お金・時間を節約できることを意味する。

利用者である市民や行政職員が、そのメリットを実感できなければ、電子申請は使われなくなってしまう。メリットは、労力・お金・時間といった誰でも理解できるわかりやすいものでなければいけない。

電子申請システムを単独で考えてはいけない。必ず、市民の生活や企業の活動、行政職員の業務とセットで考える必要がある。利用者の生活や業務において、電子申請がどのような役割を求められているのかを理解することが必要である。

同時に、電子申請という新しい試みが、利用者に与える副作用についても十分に配慮しなければいけない。利用者が困惑し、受け入れを拒む電子申請は、実用性を持ち得ないのである。

5 経済性・効率性

電子申請は、経済性と効率性を持たなければいけない。それは、費用に見合った価値を生み出すこと(=費用対価値)を意味する。

電子申請への投資は、システム構築のために行われるのではなく、社会・経済活動の育成と発展に対する投資である。電子申請を実現し、それを利用することで、市民・企業・役所の生産性や効率性が向上しなければいけない。

生活やビジネスの流れが、役所の手続によって、渋滞を起こしてしまうのであれば、その渋滞原因を究明し解消する必要がある。電子申請を始めたにもかかわらず、紙による手続や窓口のサービスが従来どおりであれば、依然として渋滞が存在し、その電子申請が効率性を備えていないと言える。

重要なのは、システムを構築する前に、手続全体の効率化・合理化を徹底することである。もし、その手順を誤ると、経済性・効率性を損なうばかりでなく、継続性・拡張性といった他の原則にも著しく害をもたらすことになる。

高価で大規模な電子申請システムが、優れたサービスを提供できるとは限らない。むしろ、費用に見合わない、実用に耐えないものとなる可能性が高い。なぜなら、大規模な電子申請システムは、構築計画のマネジメントや運用の維持・管理が難しく、時代の変化に応じた軌道修正を苦手とするからである。

6 継続性・拡張性

電子申請は、継続性と拡張性を持たなければいけない。それは、維持・管理が容易で、ニーズや技術の変化に柔軟・迅速に対応できることを意味する。

電子申請は、システム構築の実現が目的ではないし、電子化された手続の数や機能の多さをを競うものでもない。

電子申請は、改善・刷新を繰り返しながら、そのゴールを目指すこととなるため、運用を開始した後の適切なフォローがより重要となる。

維持・管理に必要以上の手間と費用がかかれば、電子申請の効果は半減し、人々は電子申請を活用するのではなく、電子申請に振り回されることになる。

新しいアイデアやサービスを吸収できなければ、お金をかけて構築した電子申請も、あっという間に時代遅れの産物となってしまうことになる。

7 汎用性・相互運用性

電子申請は、汎用性と相互運用性を持たなければいけない。

汎用性や相互運用性を持たせるとは、インターネットを生活や仕事で日常的に利用する人が、その延長で電子申請も使えるということを意味する。インターネットにおいては、役所の手続だから特別という考え方自体がナンセンスなのである。

ショッピングやビジネスで使っているデータ、本人確認方法、決済手段といったものが、電子申請でも使えようになり、役所の手続と感じさせないようにすることが、電子申請の汎用性・相互運用性が目指すところである。

残念ながら、現在の日本の電子申請は、そうした汎用性・相互運用性からは遠くかけ離れた所にあり、縦割りと重複投資により乱立したバラバラな電子申請システムへの対応で、悪戦苦闘している状況である。

そもそも組織間の協働・連携を前提としない縦割り社会の行政機関であるから、黙って見ていたら、バラバラになるのが当然である。

まずは、協働・連携できる環境作りから始める必要があり、電子政府や電子申請の構築計画に、財政・人材などの優遇措置を含めた具体的な環境作りの施策を明記しなければいけない。そのためには、強いリーダーシップと一貫性のある戦略が必要になるのである。

8 市民性・公開性

電子申請は、市民性と公開性を持たなければいけない。

電子申請における市民性とは、できるだけ早い段階から市民が参画して、最終的な監視や評価にまで関与することを意味する。市民の参加により、

  • 利用者ニーズを理解し、優先すべき電子申請サービスを決めることができる。
  • わかりやすい表現を使うことが要求されるので、説明責任や情報公開に対応しやすくなる。
  • 市民にとっても学習の機会となり、電子申請への理解や問題意識が高まる。
  • 市民と役所が共同作業をすることで、信頼関係を構築することができる。

などの効果が期待できる。

現在の日本の電子申請は、学者やシンクタンク、ベンダー、そして役所の情報政策担当者によって計画・構築されているため、利用者の視点に著しく欠けており、市民や現場職員からの理解や信頼を得ることができずにいる。

本当に市民重視のサービスを提供したいのであれば、市民の参加を促し、マーケティングとユーザビリティの専門家を登用するべきである。

電子申請における公開性とは、電子申請の実現により、行政手続、公共調達、政策形成そして役所そのものが、市民にとってよりわかりやすく、公平で透明なものとなることを意味する。

電子申請が成功するための絶対的な条件は、わかりやすさと情報公開であることを認識しなければいけない。

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